Kanemoto Naoaki

兼本 直明

Aonosumika合同会社 代表社員 http://aonosumika.jp/

略歴

筑波大学第二学群比較文化学類にて、文化地理学専攻し「歴史的景観」を研究。2009年、京都に移住。京都建築専門学校にて、大工や左官仕事を通して伝統建築を学ぶ。2011年、京都の老舗造園会社の小島庭園工務所に入社。伝統庭園と雑木の庭を融合した、作庭家小島佐一の作品に触れる。2015年、雑木の庭の名手、荻野寿也の庭づくりに惹かれ、荻野寿也景観設計に入社。設計段階から建築家と協同して作る家と庭の心地よさを体感する。
2022年、Aonosumika合同会社を設立して造園家としてスタートを切る。「建築好きの造園家」として「居心地のいい住まいのための造園」を目指している。

現在の仕事についた経緯

私の原風景は、神社にあります。昔から神社になぜか惹かれ、今でも大小問わず神社を見つけては訪ねています。高校生の頃の「総合の学習」では、地元の神社を片っ端から調べてましたね(笑)。
神社の何に惹かれるかというと、ほっとする感覚と引き締まる感覚が両方いいバランスで感じられるところにあるのかな、と思います。神社は基本樹木を切らないので、多くは森のようになっていて、その緑に抱かれるように社があります。一方で、神域であるために境内は綺麗に掃き清められています。神社の境内に入ると、緑の空間に癒されると同時に、凛とした雰囲気に背筋が立たされる、そんな感覚が好きです。
今まで、景観、建築、造園と学んできましたが、結局のところ神社のような「ほっとするけどシャンとする場所」を作りたくて紆余曲折してきたのではないかな、と思っています。

仕事へのこだわり

一つ目は現場主義であること。
造園の仕事は、一つの場所・空間をつくることです。設計も大事ですが、最終的には現場での感覚、判断を第一にしています。
私は造園の前に、建築設計について学びましたが、そのまま設計の道には進まず、現場の一職人からスタートしました。それは何より現場の感覚を身につけたかったからです。モノをつくるには設計という想像力と、それを実現する施工力の両方が必要です。建築業界は完全に分離していますが、造園業界は一緒である場合が多いです。現場での施工力は、体力がモノを言うため、若いうちに始めるのが有利と思い、職人の世界に飛び込みました。
造園は、現場での匙加減が大きく完成度に左右します。最初から最後まで現場主義を貫くことが、いい造園をする条件だと考えています。

二つ目は感覚から落とし込まれたモノで設計すること。
居心地のよくない空間は、現場に行かず頭だけで考え、図面上でしか判断しない設計者から生まれます。逆に、心地いい場所や空間を設計できる人は、感覚でつかんだものから逆算し、客観的な寸法、素材に落とし込むことができます。
例えば、リビングの床の高さと庭部分の地面の高さは通常、40㎝~50㎝で階段2段分程度です。図面上では数ミリの差です。ですが、その高さの差を、階段1段分もしくはほぼフラットにすることができれば、庭をより近くに感じることができ、その空間での経験は大きく変わることになります。そういった現場での感覚をもとにした設計を大事にしています。

三つ目は「神は細部に宿る」を意識すること。
この言葉を使うと、細部にばかり注意がいきますが、大事なのは「神」に当たる部分だと思います。「神」とは、“方向性を指し示す考え”です。狭義には“コンセプト”や“スタイル”という言葉にも置き換えられますが、もう少し本質的な“思想”に近いものかな、と考えています。
最近では、SDGsで「持続可能性」や「本質的豊かさ」がうたわれていますが、そういった考えを、細部まで落とし込めるかが重要になってきます。
例えば造園であれば、私は「自然であることと人間の営みの豊かさ」のバランスをいかにとるかを大事にしています。
良く争点になる細部は、虫や雑草です。人の暮らしを優先するならば取り除く必要がありますが、自然であることを優先するならばそのまま残してあげるのが正しいかもしれません。それは、その時その場所の判断になりますが、「自然であることと人間の営みの豊かさのバランスをとる」という考えがあれば、むやみやたらに虫や雑草は取り除く、とはならないと思います。細部は常に「神」から導き出すということを大事にしています。

若者へのメッセージ

今現在、明確な夢や目標がある方は、無意識のうちにされる手段の目的化に気を付けてください。
いろんな人を喜ばすためのアイディアだったのに、ただ売ることが目的になっていたり、やりたいことがあって会社に就職したはずだったのに、すぐに実現できなかったり…結婚や出産など人生の転換期を通じて、いつの間にか会社にうまく所属すること、ただ出世することが人生の目的となってしまう、という笑えない話が現実にあったりします。
ヒトは何年も先のことを想像するのは苦手です。目の前のことがすべてになってしまうのは、どんな賢い人でも起きてしまいます。なのでいつの間にか目的がすり替わってないかを時々考え直す習慣を持ってみてください。

夢や目標がない人は、自分のことばかり考える期間があってこそ、他人の役にたてる知識や技術が身につくということを覚えていてください。
私は、独立するまでただ自分のことばかり考えていたと思います。他人の役に立とうなんて毛頭考えていませんでした。建築や造園の知識は自分の生活をどれだけ良くするかにだけ向けて磨いていました。
でも最近、自分を幸せにする技術は他人の役に立つんだということに気づきました。今夢や目標がない方は、自分自身を幸せにしてあげてください。その知識や経験がいつの日か他人のためになるはずです。